エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


「ありがとうございました」

深く頭を下げ、お客様の車が車道に出るまで見送る。
そろそろ別のお客様が点検済みの車を取りに来る。バックヤードに声をかけてみた方がいいかもしれない……と思い、一歩踏み出した時、一台の車が車道から支店駐車場に入ってきた。

ご案内を、と思い顔を向けて肩が跳ねた。
その車が四宮さんのものだったから。

そういえば今日は支店に顔を出す日だったと思い出し、一度目を伏せる。

氷室さんと買い出しに出かけてから四日間、四宮さんからのメッセ―ジにきちんと返信していない状態だった。

〝海外で人気のパン屋が日本に初出店したらしい。車で一時間ほどの場所だから、鈴奈の都合がいい日にでも行ってみようか〟

今までだったらただ嬉しくてすぐに返事をしていたけれど、四宮さんがどういうつもりで誘っているのかがわからず、なんて返せばいいのかわからなくてそのまま時間が過ぎている。

それなのに、四宮さんを一目見ただけで気持ちが一気に溢れるのだから……自分自身、矛盾していると思う。

信じていいのか騙されているのかさえ計りかねているっていうのに、顔を見たら嬉しいと思ってしまうのだからおかしい。

でも、メッセージを返せていないことだけは謝っておきたいと思い、四宮さんが車を止めた社員用駐車場に小走りで向かう。

十二月に入ったばかりの外気は、夜から雪予報だからか昼間だっていうのにとても冷えていて、呼吸をするたびに肺が冷たくなる。

それでも足を止めずに息を弾ませながら、あと車まで数メートルという場所まで近づいた時、四宮さんがドアを開けた。


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