エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
でも、その前に考えを詰めていけば、そもそも四宮さんみたいな人が私を好きだと言うこと自体がおかしかったんだと、そんなところから否定してしまい……それを追ってきた自分の感情にハッとした。
だって、嫌だと思ってしまった。
最初からなにも始まっていなかったなんて、なかったことになるなんて私は嫌だ。
四宮さんとふたりで過ごした時間だとか、四宮さんの表情だとか……仕事中とは違う、ゆるく甘い声だとか。
そういうものを思い出すと、もうそれに触れることはないかもしれないのだと知った胸がじくりじくりと端からちぎられていくように痛んだ。
全部が始まってさえいなかったなんて、最初からおかしかったなんて、嫌だ。
また、ああだこうだ考えているうちに身動きがとれなくなって、タイミングを逃すのは嫌だ。
厚く暗い雲の下。
駐車場でひとり、きつく手を握り締めた。