エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
その日の仕事を終え外に出ると、なんだか空気がシンと静まっていた。星を厚い雲が隠していて雪の気配がした。
いつ降り出してもおかしくない空模様に、家路を急ぐ。万が一電車が止まったら大変だ。
同じように考えた乗客ですし詰め状態の電車に揺られ最寄り駅に着くと、空からははらはらと細かい雪が降り始めていて、周りからはポンと傘を開く音がぽつぽつ聞こえた。
これが雨だったらポンポンとうるさいくらいに傘を開く音が聞こえるところだけれど、今日は雪。
そのまま歩き出す人も数割くらいの割合でいて、私は少し考えたあとでバッグから折りたたみ傘を取り出した。
支店の駐車場で、少しそっけなくされた気がした後。仕事をする中で、何度か四宮さんを見かけたのに、一度も目が合わなかった。
すれ違った時にも視線が重ならないのは、ここ一ヵ月半ほどでは……あの、偽のお見合いをしてからは初めてだった。
告白をしてくれてからは、ただすれ違う時にも四宮さんはかすかに微笑んでくれていたし、お客様がいない時には話しかけてくれることもあったけれどそれもない。
そういえば、ほとんど毎日していたメッセージも、パン屋さんに誘ってくれて以降一度もない。
私が返していないからかもしれないけれど、案外せっかちなところがある四宮さんなら〝都合は?〟と返事を促してきてもおかしくないのにそれもない。
やっぱり、どう考えても四宮さんの態度が冷たくなったのは明らかで、それを実感すると気持ちがズンと沈んだ。