エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


「傘が壊れたのか?」
「え……あ、ちょっと気持ちを切り替えたかったので……その、わざとです。傘は無事です。すみません」

片手に傘を持っているのになぜ差していないのかと不思議そうにする四宮さんにそう説明しながら、苦笑いがもれる。

自分で言いながら、少しバカバカしく思ったからだ。

雨や雪にわざと濡れたいなんて、映画の世界だけの話で、現実に……それも責任ある社会人がすべき行動じゃなかった。
風邪でも引いて仕事を休まなければならなくなったら、会社にも迷惑をかけてしまうし自業自得という言葉だけじゃすまない。

無責任すぎる行動が今更恥ずかしくなりながらも、四宮さんが傘に入れてくれたことが嬉しくて鼓動が浮かれていた。

嫌われてはいないのかもしれないと思うだけで、しょんぼりしていた気持ちが起き上がるのだから本当に現金だ。

氷室さんに会いに来たんだろうか……と思い、それを声にして聞こうとしたところで四宮さんが言う。

「単刀直入になって申し訳ないが。なにか気に障るようなことをしたなら謝りたい」

一瞬、なんのことを言っているのかわからなかった。
むしろ、今日支店でそっけない態度をとられたのは私の方だし、どうして四宮さんがそんな風に思ったのだろうと考え、メッセージのトークルームが頭に浮かぶ。

けれど、私が返事をしていないからって、『気に障るようなことをしたなら謝りたい』なんてわざわざ待ち伏せしてまで言う……?


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