エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
「……はい」
うつむいた先で、四宮さんが一歩こちらに近づいたのが見えた。
つま先同士がぶつかりそうな距離に内心ドキドキしていると、それまで手を握っていた四宮さんの手が、私の頬に移る。
その手に促されるように顔を上げる。
すぐそこにある四宮さんの顔に、心臓が掴まれたみたいに一気に苦しくなった。
「鈴奈」
「は、はい……」
「キスしてもいいか?」と聞かれたんだと思う。
そして私はうなずいたんだろう。
ただただ、いつもとは違う色を持つ四宮さんの瞳を吸い込まれるように見つめて、気付いた時には唇が重なっていた。
ふわっと触れた四宮さんの唇の方が私よりも少しだけ冷たい。
離れては触れるのを何度か繰り返した後、四宮さんが言う。
「……鈴奈。口、開けて」
「あ、あの、でもここ外……んっ」
いくら雪のせいで通行人が傘を深くかぶるように差しているからと言っても、ここは外。屋外だ。
誰に見られているかもわからないし、実際にマンション前で立ち止まりひとつの傘に入っている私たちを不思議に思うのか、話している最中も通行人の視線をたまに感じた。
だからきっとこのキスだって見られている……そう伝えたかったのに、途中で唇を塞がれ、同時に入り込んできた四宮さんの舌に肩が大きく跳ねる。