エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
「そのことについて、実は話しておかなければならないことがあります」
慎重にそう切り出すと、お母さんは不思議そうにし、四宮さんはなにかを思い出したような顔をした。
「そういえば……話があると言ってたな」
昨日の夜、私が言いかけたことを覚えていてくれたことに嬉しさを感じつつ、ひとつ頷いてから口を開いた。
「私の父親は、私が五年生の頃、氷室さんのお母さんと不倫をしてそのまま駆け落ちしました。それからもう十三年経ちますが、家を出た直後、離婚届が郵送で届いただけで、それ以外は今まで一度も連絡はありません」
ふたりが息を呑んだのが気配でわかった。
四宮さんは氷室さんとの付き合いが長いし、氷室さんのお母さんが不倫して家を出たことは知っていたかもしれない。
でも、その相手が私の父親だとは知らなかったようだった。
仕事ができて、どんなトラブルも涼しい顔をして処理できる四宮さんの面食らった顔なんて初めて見た。
お母さんも言葉を失っていて、びっくりさせたことに申し訳なさを感じながら続ける。
「母は、私が高校三年の終わり頃に病気で亡くなりました。隠さず言いますが……元ヤンなんです、母。威勢がよくて正義感が強くて、知らない人のいざこざにも自分から首を突っ込んでいっちゃうような、なかなか強烈な母でした。だから、父が出て行ったあとは荒れて、鬼の形相で探し回ってました」