エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


小学生の私でも、父が裏切ったことはわかった。
けれど、母の怒り具合を見ていると、父が見つかりませんようにと祈った夜も多々あったのは事実だ。

そんな、鉄砲玉みたいな母に疲れたのか、父は氷室さんのお母さんと不倫という関係になった。

私の記憶する限り、氷室さんのお母さんはいつでもニコニコしている、本当に優しそうな人だったから、そんな女性に癒されたいと考えたのかもしれない。

どちらにせよ勝手な話だとは思うけれど、夫婦のことは夫婦にしかわからない。
それは子供である私も例外ではないんだと思う。

「父が出て行ってからも母は元気でした。元気に見せていただけかもしれませんが。でも、お隣さん同士の不倫と駆け落ちなんてすぐ噂になってしまって……それが原因で私が学校でいじめられるようになってから、少しずつ母は元気をなくしていったように思います。もともと体が弱かったのもあってそこに心労が重なったんだろうって、入院した病院の先生からは言われました」

いじめの原因は、父の不倫と駆け落ちが周りに知られたからだった。
周りのクラスメートはみんなしてヒソヒソと私を見ながら話し、教師は腫れ物でも扱うように、関わりすぎないように、距離をとって接するようになった。

でも、理由が理由だけに母には相談できなくて……その時だ。氷室さんが話しかけてきたのは。

同じ傷を持っているからこそ、私は安心して氷室さんになんでも話せたし、言葉なんかなくてもお互い共鳴していた。

お互いの心にポッカリと空いた穴を補い合うように、いつも一緒にいた。


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