エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
『いいんだよ。親父は好きでやってんだし。鈴を放っておく方が親父にとってはストレスになる。鈴のことはもう娘同然に思ってるし、なんでも甘えてやった方が喜ぶって』
そんな、氷室さんの適当な言葉に救われながら今まできてしまったけれど、それでいいわけがなかった。
あんなにいい部屋じゃなくたって生活はできる。だったら、自分で身の丈にあった部屋を探せばよかったんだ。
厚意を申し訳なく思うのなら、勝手に出て行き、行き先を伝えなければいいだけの話だ。
家族でもなんでもない氷室さんたちと私の繋がりなんて、お互いに連絡を取り合おうとしなければ続かない。
なのに、それを選ばず、未だに氷室さんたちにお世話になっているのは――。
「ひとりになるのが、怖くて……家族がいない私は、誰かと繋がっていないと本当にひとりぼっちになってしまう気がして……ずっと、氷室さんたちに甘えていたんです」
うつむくと、いつの間にか溜まってた涙が落ちた。
まるで水のなかにいるように、視界がゆらゆらと揺れる。
氷室さんにあんなに偉そうに〝信頼〟なんて言っておきながら、私だって本当はいつ切れるかわからない関係が怖かった。
急に手を離される怖さを知っているからこそ、いつ訪れるかわからないその時が来るのが恐怖だった。
毎朝、ベッドでだらだら寝ている氷室さんを確認して胸を撫で下ろしていたのは私だ。