エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
「でも、私……身寄りもないような人間ですし……」
「それに関しては、なにひとつ鈴奈に責任はない。けれど、言わせてもらえば鈴奈がひとりになった時に出逢っておきたかった」
端正な顔立ちを悲しそうに歪ませて「つらかっただろ?」と気遣われてしまえば、もう涙をこらえることはできなかった。
つらかった。
父がいなくなってしまったあの日から、ずっとつらかった。
けれど、母の方が悲しいことも、父のとった行動がいけないこともわかっていたから、素直にさみしいなんて言ってはいけない気がして、言えなかった。
病院のベッドで弱っていく母を見て、心配する気持ちと同じくらい、ひとりにしないでというわがままを思ってしまう自分が嫌だった。
苦しくて、でも誰の前で泣いていいのかがわからなくて……ずっとずっと、つらかった。
どんどんと溢れ出る涙に、うつむき、顔を両手で覆う。
肩を震わせて泣く私の頭を、四宮さんの大きな手が撫でる。
ず……と鼻をすする音がした気がして顔を上げると、お母さんが私以上に泣いていて目を見張る。
「うちの事情なんて考えないでいいのよ。私はね、昴貴のどこが好き?って聞いたら嬉しそうにたくさん話してくれる鈴奈ちゃんが可愛くて好きで……ああ、もう本当、悔しいわ。こんなの、文句のぶつけどころがないじゃない……っ」
涙をこぼしながら怒るお母さんを見て、四宮さんが嫌そうに顔を歪める。
そんな様子に、泣きながら笑ってしまった。