エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
店長に相談したところで、店長はどこか他人事で私任せなところがある。
けれど、任せられたところで私には塚田さんのクビがかかっているような決断は当然できない。
そんなジレンマを相談すると、浅尾さんは『一応、記録残しておいた方がいいよ』と言った。
『あとになって塚田さんの件が問題になった時〝どうしてなにも報告しなかったんだ〟とか言われても嫌だし、今の店長は保身のために〝なにも聞かされていなかった〟とか嘘つきそうだし。店長に相談したとか……あと、塚田さんがその日にした仕事内容書いておけばいいと思う』
浅尾さんにそう言われたのが半年ほど前。営業日は毎日書いているにも関わらず、塚田さんが一日にしている仕事なんて限られるので、ワードにつけている日誌はまだ十五ページしかない。
「へぇ。記録か。よく裁判とかでも重要証拠とかで提出されるもんな」
「……そんなおおごとではないんですけどね」
寝癖をつけたままの氷室さんは、膝を下ろしながらトーストをかじった。
広いリビングダイニングには、大きな窓から日差しが差し込んでいた。
私の部屋はワンルームだからこの部屋と間取りは違うけれど、ひとり暮らしには充分すぎるほどの広さがある。
二十畳以上のワンルームは、収納されているパーテーションのような仕切りを引っ張り出せば二部屋に分けることもできるし、使い勝手がいい。
新築らしく、水回りも綺麗で、なによりキッチンが最新式なのに一番驚いた覚えがある。対面式の広いシステムキッチンは、部屋のなかで一番のお気に入りだ。