エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


「その派遣、俺が適当にたぶらかしてやろうか。玉の輿狙いなら、社名と御曹司って言葉にすぐ揺らぐんじゃねぇの。で、言い寄って結婚退職しろよとかそそのかして、退職願が通ったあとで振って音信不通になるとか」

「……そんなひどい話を、よく楽しそうに笑ってできますね」

ケタケタと楽しそうに笑いながら言う氷室さんを非難する。
氷室さんは、空になった食器をシンクに置き、背伸びをする。背が高いから手が天井に届きそうだ。

「だってさ、そいつが働かないぶん、鈴に仕事が回ってきてるんだろ? そんなん、鈴ばっか損してるみたいで嫌じゃん。俺なら速攻で上司に報告しちゃうね」

「氷室さんはその前に、自分が報告される側にならないように気を付けてくださいね」

「おお、すげぇブーメランきた。大丈夫だよ。俺、仕事はちゃんとやってるもん。だらしないのは私生活だけ」

それはそれでどうなんだろう。
呆れながら食器を洗っていると、隣に立った氷室さんが栄養ドリンクを飲みながら言う。

「どうする? 首から〝HMR御曹司〟って名札下げて鈴の支店行ってやろうか。そしたら簡単に釣れるだろ」

「……海外で頑張ってる氷室社長と、全社員のためにやめてください」


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