エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~



マンションの最寄駅前は、バスやらタクシーが停車してはひとを飲み込んでいく。待ち合わせ時間の二十時まではあと十分。

どうしたものかな、と考えながら氷室さんを待つ。

十月下旬の空はもうすっかり夜空になっていた。瞬く星を、道路を走る車のヘッドライトがくすませている。

今日も塚田さんは変わらずネイルを眺めて一日を過ごしていた。
お昼休みに、営業のひととちょこっと話したけれど、やっぱり店長はだいぶ強く訴えない限り動かないひとらしい。

『人当たりが柔らかいし、意見もしやすいんだけどね。ただ……なんていうか、責任が伴うことは嫌がるところがあるかな。店長本人も言ってたけど、あまりひとの上に立つのは得意じゃないみたいだから』

『まぁ、部下に注意するのが苦手っていっても、営業も……あと、メカニックもそこまでの問題児はいないからいいけど。塚田さんはなぁ、たしかに目に余るよな。たいして話したこともないような俺がそう思うんだから、ずっと一緒に仕事やってる藤崎さんなんかツラいよなぁ』

話していると、しまいには同情されてしまってあいまいに笑うことしかできなかったけれど。


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