エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


やっぱり、誰からどの角度で見ても同じような意見になるんだなぁとひとつ息をつく。

塚田さんがネイルを眺めて過ごしていても、仕事はなんとか回る。
けれど、派遣だろうがなんだろうが、仕事として来ている以上、あんな態度が許されるわけがない。

お客様から見たって、私だけがパタパタと店内を走り回っているのは不自然だろう。
電話の呼び出し音だって、長く響かせていたらまずい。

やっぱり、店長にお願いして派遣会社に報告してもらうほかないのかな。

普通に、面と向かって注意ができれば当人だけで終わる話なのに、システム上どうしても事が大きくなってしまうからそこがネックだ……と考えていたとき。

バスや車の走行音や、駅構内に響くアナウンスに混ざり、大きな声が聞こえてきた。
振り返ると、バス停の手前でなにやらもめているようだった。スーツ姿のビジネスマンがなにやら怒鳴っている。

「どこ見て歩いてるんだよ!」という怒鳴り声を聞く限り、ぶつかったとかそんなところだろう。
街灯の白い明かりに照らされた男性の顔は険しく歪んでいた。

向かい合うように立っているスーツの男性ふたりを避けるように通行人が歩いていく。

「どうせスマホ見て歩いてたんだろ。どうするんだよ、これ……コーヒー、まだ買ったばっかでひと口も飲んでないし、スーツだってこんなだし……本当にどうしてくれんの?」

男性は自分のワイシャツをつまんで眉を潜める。
白いワイシャツにはコーヒーがかかり茶色に色を変えていた。


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