エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


一度、氷室さんが自分でコーヒーをこぼしたことがあったけれど、コーヒーのシミをおとすのはすごく大変だった覚えがある。

すぐに洗濯用洗剤で洗って漂白剤につけても、結局うっすら汚れは残ってしまった。
氷室さんは『いいよ、そんなジロジロ見てくるやついねぇし』なんて言ってそのまま着ているけれど、クリーニングに出すのが一番早いと思う。

シミ抜き……五百円だったかな。八百円くらいだったっけ。

近くのクリーニング屋さんの料金表を頭のなかに浮かべていると、コーヒー被害を受けた男性が「もちろん、弁償してくれるんだよな?」と迫る。

その男性は三十代に見える。一方の男性は後ろ姿だから顔はわからないけれど、雰囲気から想像すると若そうだった。

コーヒービジネスマンの、まるでその筋のひとのような詰め寄り方はどうかと思うものの、服を汚してしまった以上、誠意として妥当な額の弁償はすべき……なんて考えながら眺めていたとき、それまで黙っていたスマホビジネスマンが「いや、でも」と口を開く。

「俺もスマホは見てましたけど、そっちだって俺を避けられなかったじゃないですか。お互いに前見てなかったなら、俺だけが悪いわけでもないでしょ。まぁ、弁償はしますけど」

その言葉に、内心、若干ひいていた。
百歩譲って、第三者だったらそういう意見もあるけれど、当事者でこれはない。


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