エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


スマホビジネスマンは、自分が歩きスマホをしていたと認めた上で、それを謝る前に〝どっちもどっち〟と主張する。

そのありえない主張も真剣さの窺えないヘラヘラした態度も、なんとなく氷室さんに似ているなと思うと放っておけない気分になってくる。

どうしよう、と思い見ている先で、「はぁ?!」と今度こそキレたコーヒービジネスマンが掴みかかる。

「このガキ、ふざけてんかっ! まず謝れよっ」

胸倉をつかんでグラグラと強く揺すぶる行為に、駅前がざわつく。
私も今まではただ眺めていたけれど、今にも殴りかかりそうな様子を前に焦る。

気持ちはわかるものの、暴力はよくない。

誰かが止めに入ってくれれば……と思うけれど、周りの通行人はチラチラとそちらに視線を送るだけで割り込んでいく様子はなかった。

だからといって私があの間に入っていったところで……と眉を寄せ考え込んでいたとき、今まで背中を向けていたスマホビジネスマンの顔が見える。

その顔に驚いたと同時に目が合い、相手も私に気付いたみたいだった。
目を見開いたあとで、ヘラッとした笑みを向けられる。

高校時代の同級生、村田くんだ。

村田くんは私に笑みを向けただけで、助けを求めるわけではなかった。
その様子を見たらさすがに放っておけなくなり……少し迷った末、諦めて近づいた。

知り合いだと気付いた以上、無視はできない。



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