エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


「いや、俺は助かったし。藤崎、会社帰り?」
「うん。村田くんは?」
「俺は営業先から戻るところ。普段はこの駅は使わないんだよ。だから今日は偶然会えてよかった」

人懐っこい笑顔を向ける村田くんに、目を細める。
こんな言い方は彼に失礼だけれど、本当は素直ないい子なのにな……と考えていると、「これから時間ある?」と聞かれた。

「え……ううん。約束があるから。それに村田くんはこれから会社戻らなくちゃなんでしょ?」

〝これからどこかでお茶でも〟という雰囲気を感じて断ろうとしたけれど、その前に村田くんにも時間はないことを思い出す。

指摘した私に、村田くんはややバツが悪そうに笑った。

「いや、少しくらいなら遅れても問題ないかなぁって。……でも、やっぱりダメか。藤崎、昔から真面目だったもんな。また怒られるのも嫌だから、今日はちゃんと戻るよ」

高校時代、そこまでカリカリ怒っていたかな……と自分自身の過去について苦笑いを浮かべていると、村田くんが一歩距離を詰める。

見上げると、目の前に立った村田くんが私を見下ろし目を細めていた。

「元気だった? 藤崎、高校卒業してすぐ引っ越しちゃって連絡がとれなくなったから気になってたんだ」
「あ……うん。ちょっと色々あって。でも元気だったよ」

誤魔化すように笑った私に、村田くんが言う。

「連絡先教えてよ。今日のお礼に奢るから飯行こう」

携帯片手に言われ、一瞬キョトンとしたあとで口を開く。

「あ、ううん。いいよ。私が勝手に割り込んだだけだし」
「でも、俺は助けてもらったし感謝してるから」
「だとしても、ご飯奢ってもらうほどのことじゃないし。今の言葉だけで充分……」
「いいから。はい。携帯出して」


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