エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
「ごめんね、村田くん。この人、悪い人じゃないんだけどちょっと性格がおかしいの。気にしないで」
首に回ったままの氷室さんの腕を強引に振りほどいたあと、村田くんに笑顔を作る。
それから、氷室さんの背中をぐいぐい押しながら「じゃあね」と村田くんに別れの挨拶をする。
後ろから声は追ってこなくて、そこにホッとした直後、氷室さんが「どこまで押すんだよ」と、からかうように笑うから、手を離し立ち止まった。
私を振り返り笑う氷室さんの顔には、さきほどの怖い雰囲気は跡形も残っていなかった。
さっきの刺すような空気はなんだったのだろう……とひとり考えていたとき、「藤崎」と呼ばれる。
見ると、四宮さんが氷室さんの隣に並んだところで、突然の登場に目を見張った。
「え……あ、お疲れ様です……。えっと、偶然ですか?」
ここは、氷室さんと私が住むマンションの最寄り駅前。この駅周辺にうちの会社の支店はないはず。関連会社にでも出向いていたのだろうか……。
四宮さんが通りがかった理由がわからずに聞くと、なぜか氷室さんが答える。
「いや、仕事関係で四宮に話があったから電話したんだけど、どうせならと思ってついでに夕飯に誘った。買い出しついでに、今日の分はなにかテイクアウトしようかと思って。駅地下にうまい弁当屋入ってるし、それと適当に総菜買っていけばいいだろ」
「あ、はい。そうですね」
その会話を聞いていた四宮さんが、眉間にシワを寄せて言う。