エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


「えー、だってひとり暮らしの部屋に誰も遊びに来てくれないとか寂しいじゃん。だから俺が行って……っと、電話だ」

テーブルの上で振動する携帯を手に取った氷室さんは、表示されている名前を見てやや面倒くさそうな苦笑いを浮かべてから耳に当てた。

その態度から、きっと関係のある女性なんだろうと容易に想像がつく。

「あー、うん。はいはい……いや、忘れてたわけじゃないんだけど、色々あって。……うん。俺も連絡しようとは思ってて……はは、違うって……あーうん。わかったって。じゃあ今から行くよ」

相手になにかしら怒られたのだろうと予測する。
それは四宮さんも同じようで、シャンパンを飲みながら呆れた眼差しを送っていた。

「ごめん。ちょっと出てくる。前回遊んでから一ヵ月も経つのに一度も連絡してこないってどういうことだって、なんかすげぇ怒ってるから」

へらっとした笑顔を浮かべながら席を立つ氷室さんに、四宮さんが「付き合ってるのか?」と聞く。
付き合っているなら一ヵ月も音沙汰なしは確かに失礼だけど、違うならそこまで怒られる話でもないと思ったのかもしれない。

「そういうわけでもないんだけど、まぁ、言葉にするのが難しい関係っていうか」

つまり、親密な仲ではあるけれど真剣交際ではないということかとひとり察する。氷室さんのいつものやつだ。



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