エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
四宮さんも氷室さんのそういう部分は理解して諦めているのか。
「もう今年三十一だろ。ほどほどにしておけよ」
こんな氷室さん相手でも案外親切な四宮さんの性格ならお説教の十分や二十分あってもおかしくないと思うのに、そう言っただけだった。
そんなこんなで慌ただしく氷室さんが出て行ってしまったため、突如部屋には四宮さんと私のふたりきりになった。
「あ、ケーキ出しますね」
「ああ。頼む」
手持無沙汰状態に耐えきれず、冷蔵庫からホールケーキを出して切り分ける。
デザート用のお皿をテーブルに置くと、四宮さんは「ありがとう」と言ってからふっと笑う。
その理由はケーキの上に載っているチョコプレート。
氷室さんが買ってきたホールケーキの上には『昴貴くん、おめでとう』という文字が音符マークとともに躍っていた。
「こんなケーキ、小学生の頃以来だな」
「そうなんですか? 氷室さんは未だに自分の誕生日も私の誕生日もこういうケーキ買ってきますよ」
「自分の誕生日も? じゃあ、これは嫌がらせじゃないのか」
苦笑いを浮かべた四宮さんがチョコプレートをフォークで器用にすくう。
そして、私のお皿に移した。
「甘いものはそこまで得意じゃないんだ。悪いが、食べてもらっていいか?」
「あ、はい。もちろん。……でもなんだか、四宮さんの名前が入ったチョコプレート食べるのってものすごく失礼に感じますね」
「ただのチョコだ。なにも感じる必要はない」
「じゃあ、いただきます」