エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
「信頼というよりは慣れかもしれないです。氷室さんはそういう人ってもうインプットされちゃってるというか……〝帰る〟って一方的にメッセージ送って実際に帰ったとしても怒らない人だって知っているというか」
「でも、本来の藤崎なら勝手に帰ったりはしないだろ?」
「そうですね……。相手が氷室さん以外だったらしないです」
家族相手でも友達相手でも、しっかりと連絡をとって話してからその場を離れると思う。連絡がとれなかったら少なくとも三十分以上は待つ。
じゃあどうして氷室さん相手の時だけ違う対応をとるのかといえば……と考え、苦笑がもれた。
「氷室さんがいい加減だから、呆れてそれに合わせるようになったのもあるんですけど……もしかしたら甘えてるのかもしれないです」
その可能性に初めて気付き、なんだか恥ずかしくなる。
氷室さんと私の関係に対して、周りが言うように私がマイナスばかりを被っていると思っていたわけではない。
けれど、氷室さんのあまりの普段の生活のひどさや軽薄すぎる性格に、いつの間にか私の中に面倒を見ているという考えが生まれていたのかもしれない。
だから今、潜在的に〝氷室さん相手ならある程度ひどい態度をとっても大丈夫〟と甘えてしまっている自分に気付き、恥ずかしくなった。
私がこんな態度をとるのは氷室さんだけだ。
家族相手でもする気遣いを、氷室さんにはしていない。
氷室さんに偉そうなこと言えないな……と思いながら苦笑いを浮かべていると、ふと隣からの視線に気付いた。