エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


見ると、四宮さんがこちらをじっと見ている。

信号は赤だった。
暗くても、周りから入り込んでくる明かりで四宮さんの真剣な表情がわかる。
いつもとは違うシチュエーションだからか、それとも明かりの入り具合のせいか、四宮さんの綺麗な顔が余計に際立って魅力的に見え胸が高鳴った。

隣同士に座っているし、この距離じゃ私の心臓の音が聞こえてしまいそうで焦っていると、目を合わせたままの四宮さんがこちらに手を伸ばす。

ゆっくりとした動作にドキドキすることしかできずにいる私の耳のあたりの髪を、四宮さんがひと掬い拾う。

直接肌に触れられているわけではないのに、背中をぞくっとした感覚が這い、腰が引けそうになった。

車内に充満する四宮さんの色気に、もうどうにかなってしまいそうになっていると四宮さんが口を開く。

「たとえば氷室にこうされたら、藤崎は今みたいに真っ赤になるのか?」

緊張のせいで四宮さんの言葉が耳を上滑りする。
それでもなんとか理解し首をふるふると振った。

「そうか」と落ち着いた声で言った四宮さんは、髪を離すとそのまま私の耳に触れ、その手で首筋を撫で鎖骨のあたりで止める。

その動作すべてが焦らすようにゆっくりと行われるから、私の胸は今にも壊れそうなほど戸惑っていた。

そんな戸惑いさえも見逃さないほど四宮さんの眼差しが強く私を捉えているから余計に困惑する。

呼吸するたびに四宮さんの甘い毒が入り込んでくるみたいだった。車内の空気がひどく甘く重たい。


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