エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~
『今帰ってきたんだけど、体調悪くってさ。おかゆとかうどんなら食べられそうなんだけど……。鈴、今日は飯作れそう? まだ仕事か?』
「え。体調悪いんですか?」
たしかに声がいつもより弱々しいかもしれない。
『そう。だるくてためしに熱計ってみたら八度近いんだけど……これ、死ぬやつ? あ、でも腹は減ってるし食欲もないわけじゃないから、体は生き延びたがってそうだけど』
「死にはしないと思いますけど……きっと夏の間ずっとエアコン生活で冷たいものばっかり飲んでたからですよ」
『まぁ、俺もそうかなとは思ってた。で、帰れそう?』
そう聞かれ、答えに迷う。
これから四宮さんと食事の予定だしもうお店に向かっている途中だ。四宮さんだって仕事が忙しい中、時間をとってくれている。
氷室さんはいい大人なんだし、七度台の熱で食欲もあるならコンビニくらい行けるだろう。問題はない。
そう思いながらも答えられずにいると、隣からひとつため息が聞こえた。
見ると四宮さんが苦笑いを浮かべていて、その顔に、電話の内容が筒抜けだったのだと悟った。
「店は予約してあるわけでもないし、行かなくても問題ない。今日はどこかで適当にテイクアウトして帰るか」
「え、でも……」
「俺も、いつ氷室の電話で邪魔されるかを気にしながら食事するのは避けたいし、藤崎も体調を崩していると聞いた以上、気が気じゃないだろ?」
優しい色の瞳に言い聞かすように問われる。
それでもうなずけずにいる私の頭を四宮さんが撫でた。