エリート副社長とのお見合い事情~御曹司はかりそめ婚約者を甘く奪う~


「食事はまた行けばいい。近いうちに誘わせてもらうから、俺のことは気にするな」

柔らかい微笑みに胸を締め付けられながら、コクンとうなずき氷室さんにこれから帰ると伝え電話を切った。

「じゃあ、駅地下経由で送っていく」と言う四宮さんに、大丈夫だと遠慮したのだけれど「執拗な遠慮は目上の人間の鼻を折りかねない。素直に甘えておけ」と言い切られてしまった。



駅地下で買い物を済ませたあと、また四宮さんの車に乗り込みマンションに向かう。時間は二十一時近かった。

駅地下で買ったのは、具沢山のサンドイッチを数種類と、専門店のおにぎりを六個。お惣菜のお店では、グリーンサラダやレンコンのはさみ焼き、生春巻き、エビマヨ、そして大きなトンカツを二枚購入した。

氷室さんは体調が悪そうではあったものの、どうせ食べ始めればお肉が食べたいだとか言いだすのは四宮さんも私も目に見えてわかっていたので、特に消化だとかは考えずに選んだ。

とはいえ一応病人ではあるので、冷凍うどんと鶏肉も買っておいた。

たくさんの食べ物が入ったビニール袋は後部座席に置かれているけれど、こんな高級車でもしも液漏れでもしたら……と気が気でない。

四宮さんはなにがあってもきっと〝気にしなくていい〟と言ってくれるのがわかっているだけに、気にしないではいられなかった。

突然の予定変更にも嫌味のひとつも言わずに、今も静かに運転してくれている横顔を眺め……そういえば、とお昼の浅尾さんの言葉を思い出した。


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