記憶奏失
序章 始まり
高校二年の小鳥遊ひかりが過去のことを思い出すのは、もう随分と久しぶりのことである。
中学校に上がる辺りかその手前まで、思い出しては胸の奥の方がキュッとなる感覚に襲われていたことが、もう既に懐かしいくらいだ。
彼女はピアノで曲を創ることが得意で、尚且つそれが大好きでもあった。
それはいわゆる“作曲”というものではなく、その時感じた、思い至ったままに、ただその場限りの音を紡ぐ——とどのつまりが即興というもので、その昔、ピアニストである母・美那子が、家でピアノを触っていない時に、何となく勝手に触れてみたことがきっかけだった。
ふとして頭に思い浮かんだ音の並びが秀逸で、そしてそれを音にするだけの力がある程度備わっていた。らしい。
それは美那子が言っていた言葉で、当時のひかり自身にはよく分からない話であった。
中学校に上がる辺りかその手前まで、思い出しては胸の奥の方がキュッとなる感覚に襲われていたことが、もう既に懐かしいくらいだ。
彼女はピアノで曲を創ることが得意で、尚且つそれが大好きでもあった。
それはいわゆる“作曲”というものではなく、その時感じた、思い至ったままに、ただその場限りの音を紡ぐ——とどのつまりが即興というもので、その昔、ピアニストである母・美那子が、家でピアノを触っていない時に、何となく勝手に触れてみたことがきっかけだった。
ふとして頭に思い浮かんだ音の並びが秀逸で、そしてそれを音にするだけの力がある程度備わっていた。らしい。
それは美那子が言っていた言葉で、当時のひかり自身にはよく分からない話であった。