記憶奏失
 それを誤魔化すように、ひかりには見せないように、

「飛行機の時間に遅れちゃうわ。そろそろ行かなくちゃ」

「気を付けてね。そうだ、飛行機の機長さんにも『絶対事故らないでね』って連絡入れておいた方がいいかな?」

「ふふ。冗談言ってるくらいなら、まだお母さんも安心できるわ。それじゃあね」

 キャリーを持ち直し、玄関の扉を開ける。
 道路脇には、もう既にタクシーが停まっていた。

「いってらっしゃい。頑張ってね」

「ひかりも、気を付けてね。行ってきます」

 ふわりと優しい笑顔と共に短く言い残して、美那子はタクシーに乗り込んだ。
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