瞳には雫を,唇には歌を,この世界に祝福を。

私はこっそり表側に戻り,こっそりと大きすぎる扉を開ける。

音がするかと思ったけれど,さすがは新築。

さびた音など1ミリもしない。

私はこれをいいことに,少し乱暴に扉を閉める。

早く部屋に戻らなきゃ!

私が廊下をうろうろしているのを見られたら,怪しがられるだろうし……

そもそも,新人メイドがこんなにいい場所を通るだけでも怒られそう。

だって…この国の陛下は血も涙もない,冷徹で無慈悲な国王なんでしょう?

そんな人を殺そうとしているなんて,身震いがする。

バレたら確実に死刑だろうなぁ。

だから,どこにでもある国の下級貴族を演じ通さなければならない。

せっかくエラに貰った自信が,風船のごとく一気にしぼんでいく。
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