瞳には雫を,唇には歌を,この世界に祝福を。


庭園に風が邪魔をするように吹く。

一瞬,時がピタリと止まったように感じた。

その一瞬は永遠よりも長く,もう絶対に来ないもののように思えた。

俺はその永遠に逆らうように,気づいたら走り出していた。

無意識のうちにダッシュをして,何かから逃げるように自室に駆け込む。

「はぁ,はぁ,はぁ……。」

いつも運動をあまりしないツケが回ってきたが,息が苦しいことすら幻のように思えた。

俺は暗い部屋でズルズルと座り込む。

あの時,風が吹いていて本当に小さな声だったけれど。

確かにアイリスは自分から言ったのだ。
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