瞳には雫を,唇には歌を,この世界に祝福を。
幸せだった。幸せだったのに。
『なおらないんだって,わたしのびょうき。』
彼女は不治の病に罹ったと言う。
その瞳は,昔の俺によく似ていた。
『大丈夫だ。すぐ元気になる!
俺も頑張るから,お前も頑張ってくれ!』
毎日毎日,そう言って励ました。
でも,彼女は悲しそうに笑うだけだった。
『フェン様は,あれみたい。』
彼女が指さしたのは,月だった。
『お月様みたいだわ。』
生気のない声で,ふんわりと言った。
そう言う彼女が今にも消えそうで,俺は思わず抱きしめた。
『もう,俺から離れないでくれ!
何処にも行くな!
絶対俺が幸せにしてやるから!
だから,どうか…!どうか…!』
願いはいつも届かない。
幼い頃に,母さんが死んだ。
それから,人と関わるのが嫌いになった。
どうせ,俺と関わった人は離れてしまう。
でも,彼女は違かった。