瞳には雫を,唇には歌を,この世界に祝福を。


そう言って孤児院に現れたのは…王妃様と王様だった。

この国で一番偉い人を私は初めて見た。

王妃様と王様は,子供ができなかった。

次期王様を作らなくてはならないのだけれどどうしてもできず,やむを得ず孤児院で子供を探しに来たのだという。

なんと,その“おとなしい子”に選ばれたのは私だった。

当時5歳だった私にはよく分からなかったけれど,私は孤児院生活だったのに,急に貴族になってしまったのだ。

私に反対権など無く,無理矢理城に連れて行かれた。

“私は次期王様を決めるだけの道具なんだ”

偉い貴族と結婚して,次期王様を作るためのの道具なのだと思い込んでいたけれど,そうではなかった。

「アイリス。」

私の名前を呼んで,抱き締めてくれて,初めてたくさんの愛情をくれた。
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