瞳には雫を,唇には歌を,この世界に祝福を。

薄暗い部屋で,私は泣いていた。

恐怖で足が震えて,この上なく怖かった。

あの日…イベリアスリアルの国が攻めて来た。

私の母国は小さく人も少ない国だったから…

呆気なく無くなった。

「アイリス,大丈夫だからっ!」

あの日のことはよく覚えていない。

ただ,お母様とお茶を飲んでいて…
ただ,笑い合っていた。

イアンじゃなくて,私と一緒にいてくれていることが,嬉しかったのだ。

異変を感じたお母様が,地下にある秘密の隠れ家に私を連れて行ってくれて。

遠巻きに聞こえる大きな音に,ガタガタ怯えながら,嵐が過ぎるのを待った。

大丈夫と繰り返すお母様は,ただ自分に言い聞かせているようで…

私は余計に怖くなったのだ。
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