瞳には雫を,唇には歌を,この世界に祝福を。
お母様は,優秀すぎる人を雇ったらしい。

私が一人旅に行くとでも思ったのか,早めに着いたことに悪びれもなく,満面の笑みを浮かべて,

『アイリス様,着きました!』

と言ったのである。

本来なら8時間くらいかかる(馬車と船を乗り継いだらこのくらいかかってしまうのだ)を,なぜか6時間くらいで着くことができてしまったのだ。

馬車の操縦はとてもうまく,船もまた同じだった。

でも,また違和感が残る。

私達は,あの王に国を潰されてから,ひっそりと生活していた。

…つまり,お金が無かった。

ある時期からお母様は働けなくなってしまったし,私のような子供が働かせて貰うことは難しいのだ。

…なのに,優秀すぎる。

食事も美味だし,運転手も紳士的であり,尚且つすごく早く着くことができる。

馬車の中も綺麗だし。

誰しも文句は言えないくらいの凄さだ。
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