【完】#ただいま溺愛拡散中ー あなたのお嫁さん希望!ー
「ほう。それはそれはただの偶然だな。
君の両親は君に良い名を付けてくれたと思うよ。
しかし君がひなたと言う名前ならば、君と俺が付き合える可能性は1パーセントから0パーセントになった。」
「えぇー?!何でぇ?!」
「何でもだ。俺の細胞レベルで君を拒絶している。」
「そ、そんな……。」
「では失礼する。 俺は忙しいんでな。」
バタンと冷たく扉は閉められた。
残されたのは、裸の私と彼の甘い残り香と…テーブルに置かれた福沢諭吉 5枚。
こんな紙切れ一枚で、樹くんは私との関係を無かった物にしようとした。
これは俗にいう’やり捨て’という奴かもしれない…。いやまさか。けれどさっきまでの彼の言動を辿って行くと、私は1回セックスして捨てられたに間違いはない。
捨てられた以前に、一度も拾われもしなかったというのが正しいか。
樹くんが先程頭から掛けてくれたバスタオルを羽織りながら、キングサイズのベッドに思いっきりダイブをする。
ベッドに沈められていく体。そのシーツの波からは自分じゃない誰かの匂いがした。
初めて会った時からずっと好きだった。彼に近づく為に努力は惜しまなかった。そして今日ついに彼に抱かれる事が出来た。
けれど樹くんは私と結婚どころか、付き合う気さえなくって…寧ろ一夜限りの関係で終わらせようとした。
本来であるのならば、きゅっと切ない気持ちになってさめざめと泣くところだろう。
けれど私はそうではなかった。私に涙は似合わない。
彼の匂いが残っているシーツをぎゅっと抱きしめて、ベッドの上から宝石箱をひっくり返したような東京の夜景を見つめる。
口角を上げてにこりと笑う。