【完】#ただいま溺愛拡散中ー あなたのお嫁さん希望!ー
IDは?!証明書は?!
どうやらそんな物は、樹くんに限って必要なかったらしい。
涼しい顔をして、校内をすたすたと歩いていく。私も慌ててそれに続く。
「すごい、顔パスって奴?」
「ここは俺の母校でもある。親父の代から寄付金を幾らか積んでいる。
人というものはお金の前では頭が上がらない生き物らしい。全く持って馬鹿らしい話ではあるがな…」
「そういえばお父様もお金持ちってチビひなたが言っていたもんね」
「お金を積めばこうやって特別待遇を受ける事は容易だ。
しかしこの世にはお金で買えない物も、確かにある」
樹くんの大きくて広い背中を見つめていた。
…それって亡くなった奥さんの事かな?そう考えると胸がキュッと締め付けられる。
えーい、今はそんな事を考えている場合じゃない。
参観日は既に始まっていた。途中入場した私達はどう考えたって目立つ。背が高くて素敵な樹くんは勿論の事だが、保護者の視線は一斉に私に集まっているような気がしなくともないが。
どう見たって場違いの派手なねーちゃんがやって来た。 ひそひそと声をひそめてこちらを見つめるご婦人が数人。明らかに侮蔑を込めた表情で。
くるりと後ろを振り返ったチビひなたと目が合うと、彼はぎょっとした表情を見せて戸惑っていた。