【完】#ただいま溺愛拡散中ー あなたのお嫁さん希望!ー
「もう、一生恋はしないと思っていた」
「え?」
「陽向の為だけに、父親として生きて行こうと思っていた。
向日葵を忘れないために、誰とも付き合わないって決めた。」
樹くんの真っ黒の大きな瞳が、真っ直ぐと私を捉える。 陽の光りを浴びているせいか、その頬が少しだけ赤らんで見えるのは
心臓が飛び出しそうな位ドキドキと言っている。
「樹くん?」
口元を押さえて、少しだけ視線を逸らして彼が言った。
「こんな俺でも、もう一度恋をしてもいいと言うのだろうか…」
え。それって…。
秋だというのに、だくだくと汗が出てくる。
重ねた手は、とても熱かった。 こんな気持ち。
あの抱き合った夜にだって感じはしなかった。 何かを言いかけて口を開いた彼、遠くからチビひなたの声が聴こえる。
「おとうさーん!デカひなたー!」
両手にソフトクリームを持って笑顔でこちらへ走って来るチビひなた。
ふとそちらへ視線を移したら、大人にぶつかってしまってその場でチビひなたは転んでしまう。両手に持っていたソフトクリームは無残にもアスファルトの上にぐちゃぐちゃに落ちてしまった。
「陽向!」
「チビひなた!」
慌てて駆け寄ると、チビひなたの膝から血が出ている。
アスファルトの上にぐちゃぐちゃになってしまったソフトクリームを見つめ、チビひなたはグッと唇を噛みしめて瞳いっぱいに涙を溜める。