【完】#ただいま溺愛拡散中ー あなたのお嫁さん希望!ー
いいの?と遠慮がちに訊いてきたくせに、パートのおばちゃん達はそそくさとその場を離れる。
こういった損な役回りは昔からだ。 小さくため息を吐いて掃除中のプレートをトイレの前に置く。
「よっしゃー!!!やるかぁー!!」
こういった物は躊躇していたら仕事が進まない。ささっと終わらせる。汚物を綺麗に片付けて、床も便器もぴっかぴかに磨き上げて、最後に消毒液をふっておしまい。
世間には他人の汚物処理の仕事をしている人間だっているのだ。この位なんて事ない。
まさか小鳥遊樹社長の恋人がこんな事をしているだなんて、誰も夢にも思わないだろうけれど。
トイレ掃除を終わらせて、手を綺麗に洗って念入りに消毒。ゴム手袋を付けてはいるものの、匂いが残っていないか心配だ。
クンクンと廊下を歩きながら作業服を匂いながら歩いていると、後ろから目隠しされる。 暗闇に包まれた視界に思わず声を上げる。
「ひぇ…!」
ふわりと顔を包まれた長い指には心辺りがあった。
急いで振り向くと、そこにはスーツ姿の樹くんが立っていた。 「驚いた?」と子供みたいに無邪気な笑顔を揺らすものだから、胸はキュンキュンしっぱなしだった。