【完】#ただいま溺愛拡散中ー あなたのお嫁さん希望!ー
今日も黒い長い髪を後ろできっちりと結び、綺麗に施されたメイク。ラメの入った控えめなベージュのリップの口元も美しい。
私なんてジーパンにパーカーというラフな格好をしてしまっている。 ふと足を止めたオフィスの大きな鏡に私と夏村さんが映る。…やっぱり場違いだ。
社長室に通されて、来客用にソファーに座れと促される。社長室に入った瞬間、夏村さんの顔から笑顔が消える。
窓際には、前に来た時と同じ一輪挿しに向日葵が1本。太陽に向かって揺れている。 胸がぎゅっと押しつぶされて切なくなる。
「樹から聞いたのだけど…」
「え?」
「樹があなたと付き合っていると、まさか冗談よね。
全然笑えないんだけど」
その場で立ち止まり、私を見下ろす夏村さんの言葉はどこか冷たかった。
「付き合って…ます」
だって嘘じゃない。樹くんは私を好きだと言ってくれた。 言葉とは裏腹に、夏村さんの表情は苦しそうだった。 その表情を見ただけで、この人がどれだけの年月樹くんの事を想ってきたかは分かる。
「樹は……社内の女性からも人気があった。彼に告白をしても、皆振られて。そういうの私はずっと見て来た。
私は分かっていた。だってずっと近くで樹の事だけを見て来たのよ?
向日葵と付き合っていた時も結婚すると決めた時も…陽向くんが産まれた時も
そして向日葵が亡くなってからも、私はずっと樹を見つめて来た!彼だけを!」