【完】#ただいま溺愛拡散中ー あなたのお嫁さん希望!ー

余りの気迫に、思わず瞬きも忘れてしまってごくりと唾を呑み込んだ。
夏村さんの綺麗に伸びた睫毛が揺れて、その大きな瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだった。

「それを何であんたなのよ…?!いきなり現れて、どうして?!
私の方がずっと樹を理解してあげられる!樹の為になれる!
あんたなんか向日葵の代わりにはならない…!陽向くんだってあなたの事なんて絶対認めない!」

「夏村さん…」

「どういう手を使ったのよ?!あんたの事なんて樹が本気で好きになるわけない!」

美しい人が顔を歪ませて、私を憎んでいる。 その顔は恐ろしい程、綺麗だった。

「夏村さんがどう思おうと勝手ですけれど、私も樹くんが好きだから…!
確かにあなたよりも樹くんと過ごした年月は少ないかもしれないけれど、私だって本気で好きなんです!
夏村さんは狡い!自分の気持ちを樹くんに伝えようともしないで…!」

真っ赤にした瞳をつり上げて、彼女の左手がこちらへ飛んでこようとした瞬間だった。
ぎゅっと目を瞑ったら、低い声が冷たく室内に響いた。

「彼女を責めるのは、止めろ。
俺が勝手に好きになった」

「樹ッ!」

夏村さんの手を掴み、思いっきりそれを振り下ろした樹くんの瞳は冷たかった。
樹くんを見つめる夏村さんの真っ赤になった瞳から、涙が零れ落ちた。 

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