【完】#ただいま溺愛拡散中ー あなたのお嫁さん希望!ー
コロコロと舌で転がすと、苺の香料が口いっぱいに広がる。
先程少年にババアと言われたばかりだが、飴玉一つでこんなにも幸せになれてしまう自分はまだまだ子供だ。
例えば横に居るこの少年に比べれば、よっぽど。
ふと少年に目を向けると、彼は読んでいた本の手を止めて私の方をジッと物欲しそうに見つめていた。
正確に言えば、私ではなく私の手に持っていたドロップの缶だった訳だが。 小さい時から大好きだったサクマの缶ドロップ。その色とりどりのカラフルな飴を見ては心がときめいた。
それはいつの時代も同じだろう。
「いる?美味しいよ?」
ドロップ缶を見つめる少年の瞳は、この真ん丸のドロップより綺麗で大きい。
思わず心が緩んでしまう。
「お父さんに知らない人から物は貰っちゃいけないって言われてるんだ」
そうは言ったものの、ちらちらとこちらを気にして見ている。小生意気そうに見えたって子供は子供だ。
少年の目の前で缶を振ると、中からカランコロンと涼しい音が響く。少年の目はもうそれに釘付けだった。
「お姉ちゃんの名前は、永瀬ひなた。このオフィスビルで清掃のお仕事をしている23歳なの。
ほら、もう知らない人じゃないよ。何色のドロップが欲しい?」
「でも…お父さんが虫歯になるから甘いものはあんまり食べちゃいけないって…」
「アハハー飴玉一つ位じゃ虫歯になんかならないよッ。」
「みどり…」