【完】#ただいま溺愛拡散中ー あなたのお嫁さん希望!ー

「でも僕のお父さんはすごい人だね~。こんな大きなビルで働けちゃうなんて。
お姉ちゃんもここに用事があるから一緒に待っててあげるよ」

「何でお前と…。でもまあ、お父さんはすごい人なんだ!社長さんなんだよ?」

「社長さん?!それはすっごい!
お父さんの事大好きなんだねぇ~ッ。
でも本当にお家に連絡をしないで大丈夫?お父さんを待ってるのはいいけど、お母さんが心配しちゃうんじゃないかな?」

その言葉に、少年は眉毛をへの字に曲げて視線を下へと落としてしまった。え?!私何かまずい事言っちゃった?さっきまで笑っていたと思ったのに、表情をコロコロと変えてしまう子供の気持ちは全く理解出来ない。

そして小さな声で少年はぽつりと言った。

「僕…お母さんは居ないんだ。2年前に死んじゃった…。」

大きな瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだった。
…私は何て無神経な事を訊いてしまったんだ。

思わず彼の体を自分の方へ抱き寄せて、背中をぽんぽんっと叩く。小さな子供からは、洗濯物の柔軟剤の優しい香りがする。

私はきっと、この少年の悲しみが世界中の誰よりも理解出来るような気がして、その小さな体を放っておく事が出来なくなってしまった。

「おい、止めろよ。何するんだ。僕は子供じゃないんだ。子供扱いすんな!」

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