【完】#ただいま溺愛拡散中ー あなたのお嫁さん希望!ー
「ひなたッ?!」
突然名前を呼ばれて、少年の体からゆっくりと離れる。
オフィスビルの中から慌ててこちらへ駆け寄って来るのは、樹くんだった。
か、彼が私の名前を呼んでくれている。 あんなに慌てて私を見つけてくれた。
ラインでは冷たい態度を取っていたけれど、樹くんも本当は私の事……。
両手を広げ、彼の熱い抱擁を待っていたが…何故かこちらにやって来た彼は私を素通りして隣に居た少年を抱き上げた。
は……?
「陽向!こんな時間に出歩くなと言っているだろう?!何かあったらどうするんだ?!」
WHY?
行き場のなくなった両手が宙を虚しく舞う。
こんなに焦っている樹くんを見るのは勿論初めて、そしてホッと胸を撫でおろし少年を愛しそうに抱きしめる。
…そんな顔、見た事ない。というか…これってどういう事?!
「お父さんを迎えに来てやったんだ。」
さっきまで泣きそうになっていた顔とは大違い。生意気そうな顔を向けて少年が言う。
お…父さん…?
’僕のお父さんはここでお仕事をしているんだ!’
’お父さんはすごい人なんだよ!社長なんだ!’
さっきの少年の言葉が頭でこだまする。
「今日は早く終わったからいいものの…。お前はまだ子供なんだ。怪しい人が居たらどうするつもりだったんだ」