【完】#ただいま溺愛拡散中ー あなたのお嫁さん希望!ー
その話を樹くんにすると、彼は呆れかえったように口をぽかんと開けたままだった。
「全く理解に苦しむ。
何でそんな馬鹿みたいに恋愛に夢中になれるのか…」
「いいんですよ、私はその時その時真剣に恋をしてきたのだから。
悔いなどはありません。それに人を好きになるって素敵な事だと思うし、そんな素敵な感情押し殺しちゃうの悲しいじゃないですか」
そう言ったらちらりとこちらを見て、何かを考え込むように真っ直ぐと前を見る。
その真っ黒の瞳に映っている物は、一体何だったのだろうか。 ふと昨日見た写真立ての中の美しい女性を思い出した。
あっという間に八代台タワービルへ辿り着いた。時刻は9時5分前。どうやら樹くんのお陰で遅刻は免れそうだ。
やっぱり運が良い。今日はツイている。
「本当にありがとうございましたーッッ」
車を降りて深くお辞儀をしたら、彼はまた笑った。「声がデカいんだよ」と言って。
彼に合わせてへへっと笑った。 ダッシュで職場のロッカーまで走ろうとした時だった。
「デカひなた。」
振り向いたら、彼はやっぱり柔らかい笑顔を見せる。太陽の日差しをめいっぱい浴びて、それはとても綺麗で
チビひなたが付けた’デカひなた’ってあだ名。途端に可愛らしく思えるから、不思議なものだ。