ダチュラの咲く夜に
学力で別れた高校や大学と異なり、住んでいる地域が同じというだけで一つの校舎に押し込められる公立中学校には大抵、「不良」と呼ばれる不真面目な奴らが数人はいるものだ。
菊地竜が、それにあたる。

襟足が極端に長く、ズボンを腰骨で履く所謂腰パンスタイルで、上履きの踵部分は常に踏み潰している。
友人もいないようで、学校では常に1人だった。

中学2年の時に初めて同じクラスになり、似たような不良とよく殴り合いの喧嘩をしていたのをよく覚えている。

本人と話したことは一度もなかったが（関わらないよう僕が一方的に避けていたのだが）他校の悪い仲間と連んで、ゲームセンターでよく遊んでいるという話は聞いた事がある。

ある時、授業中に校長と警察が教室に強引に入って来て彼を万引き犯として連行した瞬間は、彼ならやりかねないなと思い、最低限の貴重品しか学校には持ってこないようにしようと誓った。

どうやらスーパーで惣菜を盗んだようだが、菊地の母親が泣きながら何度も何度も頭を下げ、スーパーの店長も子供の悪ふざけという事で、賠償等も特に求めず容認したらしい。
菊地本人も自らの意思で土下座までした事も大きかったのだろう。
警察で何枚も資料を書かされた後、厳重注意の上釈放された。

3年になった始業式の朝、下駄箱に張り出されたクラス表に彼の名を自分と同じクラスの、しかも１つ上の行に見つけた時は絶望的な気分になった。
出席番号が１つ前という事は自分の前の席になるという事も意味する。

何もなく平凡に過ごしたい僕にとって、良くない意味で刺激の強い菊地の存在は迷惑以外の何物でもなかった。

事件が起きたのは、金木犀の甘い香りが虫たちを誘惑し始め、半袖に肌寒さを感じる事も多くなった9月の事だ。

僕らの、3年2組全員分の給食費を入れた集金袋がなくなるという事件が発生した。

給食時に集金担当の教員が2組を訪れた際、教壇の内側にかけてあったはずの集金袋がないことに気付いた。
朝に担任が集金し、そこにかけておいたのはクラス全員が知っている。

担任の麻木先生が金銭の入った袋をそのような場所に放置した事に対する責任は、職員会議で厳しく追及されたらしいが、それ以上に僕たちに対する教員の目にも辛いものがあった。

すぐに全員の持ち物検査をし、教員総出で校庭の草むらから体育館倉庫、サニタリーボックス内まで隈なく探したが、袋どころか現金すら見つからなかった。

警察に被害届を出せばよいものを、世間体に敏感な教育委員会に忖度する校長の「我が校の問題を我が校内で解決するのは当然である」
という鶴の一声で、午後の授業を全て潰しての犯人探しが始まった。
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