ダチュラの咲く夜に
1時間ほどたっただろうか。
張り詰めた空気の中で生徒は1人残らず下を向いている。
黒板前には校長、教頭、学年主任、麻木が並び、豪華キャスト勢揃いかよと心の中で思った。
「今正直に話せば許す」
「ただの悪戯のつもりだろう。」
「怒らないから正直に名乗り出なさい」
普段怒鳴り散らかしている教員が諭すように優しく語る時ほど信用できないものはない。
誰も何も発しない空気にいよいよ痺れを切らした学年主任平塚の尖った視線が1人の少年を捕らえた。
「菊地、お前何か知ってるんじゃないのか。」
40名の視線が一斉に一人に集中する。
「なんで俺なんだよ。」
不機嫌な彼の声が余計に平塚の怒りを煽ったようだ。
「今正直に言えば、反省文で済ましてやる。」
「平塚先生、さすがにそれは…証拠もないことですし。」
麻木の言葉は正しいはずだった。
「確かにないですね、今は。しかしね、麻木先生。私は去年彼の担任だったんです。
彼はスーパーの商品を万引きして警察にお世話になった過去がある。その過去が証拠とも言えるのではないですか。」
平塚の左唇の端が不気味に上がり、その表情は生徒全員を震え上がらせた。
菊地は僕の前の席で肩を震わせている。
表情は見えないが、小刻みに震えるその肩から彼の感情は読み取れた。
まぁいい。別に僕には関係ない。菊地を職員室に連行するなり、なんなりしてこの重い空気から解放してくれさえすれればそれでいい。
そう言えば、さっきのココア揚げパンは非常に美味しかった。
栄養バランスが何たらのよくわからない野菜の炒め物ばかりでは逆に体調を悪くする。
毎日ココア揚げパンだったらいい。いやでもきなこも捨てがたい。
「だから違うっつってんだろ!!」
菊地の大声で今の状況を理解した。友人のいない彼は単独行動をしても一切怪しまれない。盗んだ金は外に控えていた他校の生徒に渡したのでは、との推測が平塚の主張のようだ。
菊地が犯人と特定されるような手がかりは一切なかったし、誰かが証言をした訳でもない。
根拠薄弱な憶測に過ぎない持論を繰り広げ、校長達も戸惑っていたが、プライドの高い教員と、自尊心を傷つけられた思春期の少年の議論はこの上なく白熱し、中断の余地を与えなかった。
長い水掛け論が続き、恐らく殆どの生徒が犯人が菊地であって欲しいと思いはじめたのではないだろうか。
菊地の後ろ姿も怒りで震えていた先程とは打って変わって諦めの様子が伺えた。
気がつけば陽が傾き始めていた。
張り詰めた空気の中で生徒は1人残らず下を向いている。
黒板前には校長、教頭、学年主任、麻木が並び、豪華キャスト勢揃いかよと心の中で思った。
「今正直に話せば許す」
「ただの悪戯のつもりだろう。」
「怒らないから正直に名乗り出なさい」
普段怒鳴り散らかしている教員が諭すように優しく語る時ほど信用できないものはない。
誰も何も発しない空気にいよいよ痺れを切らした学年主任平塚の尖った視線が1人の少年を捕らえた。
「菊地、お前何か知ってるんじゃないのか。」
40名の視線が一斉に一人に集中する。
「なんで俺なんだよ。」
不機嫌な彼の声が余計に平塚の怒りを煽ったようだ。
「今正直に言えば、反省文で済ましてやる。」
「平塚先生、さすがにそれは…証拠もないことですし。」
麻木の言葉は正しいはずだった。
「確かにないですね、今は。しかしね、麻木先生。私は去年彼の担任だったんです。
彼はスーパーの商品を万引きして警察にお世話になった過去がある。その過去が証拠とも言えるのではないですか。」
平塚の左唇の端が不気味に上がり、その表情は生徒全員を震え上がらせた。
菊地は僕の前の席で肩を震わせている。
表情は見えないが、小刻みに震えるその肩から彼の感情は読み取れた。
まぁいい。別に僕には関係ない。菊地を職員室に連行するなり、なんなりしてこの重い空気から解放してくれさえすれればそれでいい。
そう言えば、さっきのココア揚げパンは非常に美味しかった。
栄養バランスが何たらのよくわからない野菜の炒め物ばかりでは逆に体調を悪くする。
毎日ココア揚げパンだったらいい。いやでもきなこも捨てがたい。
「だから違うっつってんだろ!!」
菊地の大声で今の状況を理解した。友人のいない彼は単独行動をしても一切怪しまれない。盗んだ金は外に控えていた他校の生徒に渡したのでは、との推測が平塚の主張のようだ。
菊地が犯人と特定されるような手がかりは一切なかったし、誰かが証言をした訳でもない。
根拠薄弱な憶測に過ぎない持論を繰り広げ、校長達も戸惑っていたが、プライドの高い教員と、自尊心を傷つけられた思春期の少年の議論はこの上なく白熱し、中断の余地を与えなかった。
長い水掛け論が続き、恐らく殆どの生徒が犯人が菊地であって欲しいと思いはじめたのではないだろうか。
菊地の後ろ姿も怒りで震えていた先程とは打って変わって諦めの様子が伺えた。
気がつけば陽が傾き始めていた。