青いスクラブの王子様。~私が惚れたのは、一等級の外科医だった件~
極上キスの向こう
その日、私はテンちゃんと待ち合わせをして駅前の居酒屋へ向かっていた。
遊園地に行った日からはや一週間がたち、今日は三月十四日、ホワイトデーだ。
忘れもしない、ちょうど一か月前のバレンタインの日、私は見事に彼にチョコを渡しそびれた。
だから、今日は私から誘い、昨日バッチリ、ベリーヒルズビレッジタカノミヤで購入したチョコを手に、いそいそと歩みを進める。
手作りも考えたけど、やっぱり正確なのは既製品のものだと、自分の料理の腕前を考慮しての判断だ。
時刻は十八時二十分、辺りは真っ暗で、駅構内から出てくるのは仕事帰りなのだろうスーツ姿の人が多い。
寒さと彼より早く着いていたい気持ちが混ざりに混ざって、私は近道を選んだ。
今はすべての店が閉店してしまった商店街を抜ければ、居酒屋はもうすぐそこだ。
商店街は人通りが全くなく、街灯すらない。
少々怖いが、出所不明の勇気と共に、商店街へと足を踏み入れた。
…思ったより、怖くないかも?
お化け屋敷みたいで以外と楽しいじゃない。
コツコツと、私の靴の音だけが響く中、完全に気を抜いて呑気なことを考えていた時。
突然後ろから、口を布のようなもので覆われ、ピキッと固まってしまった体は、みるみるうちに引きずられる。
何が起こったのか理解するまもなく、口を解放されるや否や、視界に写りこんだ人物に絶句する。
浪川…部長……
なにこれどういう状況?
なんで浪川がここにいるわけ?
目の前の男の浮かべる表情は、それはもう気味が悪いのなんのって。
目をつり上げて口角をあげ、お化け屋敷のお化けよりもはるかに恐ろしいその顔を、ぶん殴ってやりたくなった。