青いスクラブの王子様。~私が惚れたのは、一等級の外科医だった件~


予想通り、電車で向かった先はベリーヒルズビレッジ。
今日から二月。タカノミヤはバレンタインの装飾が施されていた。


「バレンタイン…」

「あげる男いるの?」


正面玄関のハートの風船を眺めながらポツリと呟くと、テンちゃんは真意を掴むのが難しい顔で私を見つめていた。


「…いませんよ。」


最後に彼氏がいたのは悲しいことに五年前。それからは会社の人に渡していたけど…今年はオフィスがそんな浮かれた雰囲気じゃなくなってしまった。

そこで浪川部長の顔と手の感触が蘇った。
その手は容赦なく胸に触れて――
おもわず震えそうになる手をぎゅっと握りしめる。

今隣にいるのは部長じゃない。
王子だよ。テンちゃん。

瞳を閉じて静かに深呼吸していると、室内に入って離れた手がまた繋がれた。


「じゃあ今年は俺に頂戴。…みやび」


五年前にも経験したことのない、ドラマやマンガでしか見たことのない、手の繋ぎ方。
恋人つなぎだよねこれ。

俺に頂戴って言ったよね、今。
みやび…って、呼んでくれた。姉の病室で会った時以来、ずっと〝お前〟だったのに。

あまりの展開に、さっきとは全く違う意味で震えてしまう。

電車で感じたあの感情がもっとパワーアップした。
ほわほわどころじゃない。


どっきどきのバックバクだ。



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