青いスクラブの王子様。~私が惚れたのは、一等級の外科医だった件~
十九時を指そうとする腕時計を見やると、冷たい風が頬を吹き茶色い落ち葉をさらった。
そういえば、休み明けからずっとノー残業で、この時間にオフィス外にいるのは久しぶりかもしれない。
浪川部長がいないとなんて平和なんだと感嘆していると、ガラス戸が開き、レジデンスからテンちゃんが出てきた。
そのワンシーンが、ライトの光とレジデンスの雰囲気が上手い具合に重なり、先程感動した道よりも輝いて見えた。
「ごめんお待たせ。入って」
彼は外の空気に触れるとぶるっと身を縮ませ、詫びながら私の手をとった。
私の冷たい手とは対照的に、テンちゃんの手は暖かく、その温もりにドキッと心臓が跳ねた。
一緒に買い物に行った時も手を握られたけれど、あの時は安心感が圧倒的に強かった。
だが今はどうだ。
寒かったはずなのに、手を引かれて一歩歩く度私の顔はみるみるうちに赤く染っていく。
コンシェルジュはそんな私を満面の笑みで眺めている。
それがまた私の羞恥心を沸き立たせ、テンちゃんの部屋に到着するまでの間、エンジェルウィング病院より更に豪華なエレベーターにも、ホテルのような空間にも、顔があげられなかった。