誰の特別にもなれない
「痛いわ」
「佐々山の髪の毛、そうめんみたい」
「………もっと他の例えなかった?」
「いぼのいと?」
「一緒だね」
茶髪でストレートで絹みたいですッ! と鼻を抑えてへし折ろうとする私に常陸は必死に叫んで、涙目になったのを見てははは、って笑う。
見下ろして笑って、常陸も涙目になって私を下から睨んでから、それから、ふと、
同じタイミングで見つめ合う。
そこで常陸の手が私の首の裏に引っかかって、く、と下に力が入って唇が触れ合いかけたところで
顔を逸らした。
「…………常陸、頭重い。石頭。膝痛い。足痺れた」
ずる、と身を引いてごん、と頭を落とした常陸に、それでもそれ以上目が合わなかった私たちはそれっきり、また、どこともなく外の、向かいの棟で逢引する二人を見て虚無になる。
「………佐々山」
「なに」
「なんもない」
「あっそ」
「お前はずるい」
「なにが」
「わかってんのに知らないふりするなんて残酷だ」
それから俺の頭お前と違って中身詰まってんだよ、とか忘れた頃に常陸が言うから、私はそれに笑うことに必死だった。それからも、ずっと、ずっとそうだった。私たちは。
「うす」
「おす」
進捗どうすか、今日も今日とて、まじっすか。
そんな簡易なやり取りで、私たちは自分たちの生活の安寧を探っていた。月から金、待ち合わせの地学教室、昼休み、誰にも見つからないその時間。
真向かいの理科室で逢引する彼氏を、彼女をいつだって見張っていた。見張って、情報を得て、証拠を握り、獲得したら、それを見てほっとしていた。
ほっとしてしまっていた。