誰の特別にもなれない
だからバチが当たったのだろう。
その日、いつも通り登校した水曜日、常陸の彼女である瑠璃さんが二年の後輩と浮気しているという噂がひとたび学校中に知れ渡った。
瑠璃さんのその情報がどうしてそこまで早く流通したかと言うと彼女はもともと学校でもミスに推薦されるほどの美少女で、男女問わず人気があったからで。
その噂が知れ渡った頃瑠璃さんは頑なに首を縦に振らなかったからだよね、ガセだよねで世界は丸く収まろうとしていたけれど、私にだけ真実が降りかかった。
颯くんが自白した。
「ごめん史、俺、瑠璃先輩と浮気してた」
帰途で重い口を開いたのは颯くんで、その言葉をあんなに待ちわびていたはずなのに、欲しくて欲しくて堪らなかったはずなのに、聞いて、どうしようと思う。私は焦った。動揺した。
知らなかった時代に戻りたいとすら。
「———実はずっと、で…けど、もとは、あっちから…ってそうじゃなくて。謝る。ごめん、俺のせい、全部。許さなくていい。許さなくていいから、でもお願いそばにいて」
「…」
「史のことが好きなんだ」
嘘臭くて反吐が出る。容易く抱きしめたりしないでよ。そう思うのに、馬鹿みたいに私は、訳もわからず颯くんを抱きしめ返していた。おかえり、わかったよ。そんな言葉を吐いて、呆然と涙を流していた。
もう会わない、もうしない、ずっと史のそばにいる。その言葉にそう私は、
絶望していたのだと思う。
◇
「史、史。どこ行くの」
「ちょっと購買」
「俺も行く」
「やめてよ、いつもお昼は友達と食べるって言ってるじゃん」
今まで抜け出して自分は浮気してたくせになんなの、って口に出しかけてハッとして口を噤む。何かを察してごめん、と俯向く颯くんに情けなく笑ってから、うん、でも今日はほっといて、って言った。
たぶんこの言葉を私は明日も使うと思う。明日も明後日も明々後日もこの先ずっとずっと使うと思う。