誰の特別にもなれない
「常陸、見て、紙飛行機つくった」
「おじょーず」
「見てよちゃんと」
「見てる見てる」
双眼鏡でピントを合わせながら生半可に返事をする常陸のその膝を蹴る。いで、っと声を出して睨むからふふんと笑ったら、ぐーでぽこって殴られた。痛いし!
「女の子殴るとかさいてー!」
「うるっせえ俺は今集中してんだよ」
「もう暗幕引いてフレームアウトしましたやん!」
「絶対あれ下でやってるよな。絶対あれ下でやってるよな。絶対あれ下で」
「何回言うの?」
貧乏ゆすりをしながら歯噛みをする常陸をどうどう、って宥めて自分の隣に座らせる。もうそんなの今更じゃんって監視部屋に持ち込んだ折り紙の本を参考に作ったカエル、カブトムシ、蜘蛛のラインナップを見せびらかしていたら気持ちわる、って言われる。
「変だよこれ」
「え? 上手じゃない?」
「上手だけどもっと可愛らしいの作れよ女子なんだし」
「いやー下に弟がいる影響でどうもそういきませんで」
お次はへび、って新しいのに取り掛かろうとする私に常陸はいよいよはぁ、って双眼鏡を置いて緑の折り紙を手に取った。お、やるかきみ。軽く笑って、なんかまた難しそうなサソリとかに取り掛かる常陸は地味に競争心が旺盛だ。
「待てこれ山折り、谷折り」
「そこは山」
「谷折りにした」
「そっちが山! でちょっとだけ破る」
「破んの?」
え? って頭抱えている常陸を見るに見かねてかして、って手が触れる。そのタイミングで二人して離してぽと、とサソリが床に落ちた。
「…お前離すなよ」
「常陸が離したんじゃん」
「佐々山が先だった」
「どっちでもええわいもう」
こうでこうね、って掴んで作り上げる様をたぶん見ていた常陸の視線が、時折私を捉えているのを感じていた。でも気付かないフリをして、気付いてはいけないことなので、私たちはいつだって知らないふりをしていた。だってそうでしょう。
私たちは被害者同盟であるわけで。
被害者同盟であるからには、
被害者であるべきだ。