今日から不良王子と同居します。
それ以上は言葉が出なかったけど、慌てて直政くんから離れた。


すると玲生くんは黙って、踵を返して早足で立ち去って行ってしまった。


邸の正門の方、もと来た道を引き返していく。


呆然としていたら、直政くんの低い声がふってきた。


「音葉?大丈夫か?」


「あ、うん。玲生くんに見られちゃったからちょっと恥ずかしいな」


私は無理して笑った。その笑顔は自分でもわかるくらいひきつっている。


だけど、動揺していることを直政くんには気づかれたく無くないよ。


精一杯、その場を取り繕った。


直政くんの方がもっと沈んだ顔をしていたのに全然気が付かなかった。


頭の中はほかのことで一杯で。そんな身勝手な私の心を気づかれたくない。


「じゃあ、直政くんまた明日」


「ああ、また明日な」


直政くんの車が、正門を出て行くまでずっと手を振っていた。


そしてそれを見送った直後に。


私は何かに突き動かされたみたいに走っていた。


まだ間に合うかな。急いで走ったら、まだ追いつけるはず。

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